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プログラムレポート ~駒場キャンパス見学(第6期)~

2012年2月17日

130年以上の歴史がある駒場キャンパス
130年以上の歴史がある駒場キャンパス

第6期EMPでは、2012年2月4日に駒場キャンパスを訪問しました。東大EMPとして駒場キャンパスを訪問するのは、初めてのことです。駒場キャンパスではいったいどのような研究教育活動が行われているのか、その現場を訪ね、研究者らと議論を深めるのが今回の訪問の目的です。



国際標準となるリベラルアーツ教育を目指して建てられた「理想の教育棟」
国際標準となるリベラルアーツ教育を
目指して建てられた「理想の教育棟」

よく晴れてぐっと冷え込んだ土曜日の朝、三々五々とEMPの受講生達は会場となる建物に集まってきました。東京大学教養学部がある駒場は、主に1, 2年生が通うキャンパス。伝統ある建物と新しい建物が入り交じり、そこを若い学生達が闊歩する駒場キャンパスには、本郷キャンパスとは異なった独特の雰囲気が漂っています。そんな駒場キャンパスの中でも、もっとも新しい建物である「理想の教育棟」が、今回の訪問の拠点となる場所です。


駒場キャンパスの説明をする小島教授
駒場キャンパスの説明をする小島教授

「理想の教育棟」に集まった受講生らを出迎えて下さったのは、本学の副学長を務める小島憲道教授です。小島先生は、2007年~2008年度にかけての教養学部長も務められました。その小島先生より、まず駒場キャンパスの概要について簡単にご紹介いただきました。旧制一高時代の面影を随所に残す駒場キャンパスの魅力の一端に触れることができました。

引き続き、午前中には二つの講義が行われました。1限目は、小島先生による「物質の色の起源とその応用の最前線」と題した講義です。なぜ色がついて見えるのか、その原理について丁寧に解説していただきました。決して簡単な内容ではありませんでしたが、色に関する事柄を網羅する内容は、迫力がありました。講義の途中では偏光板を用いた実験も行われ、ふだん見慣れている色にも、その背景には物理学の広大な世界が開けていることを感じました。

クロロフィル(葉緑素)の発光(赤色)のデモンストレーションを行う小島教授       クロロフィル(葉緑素)の発光(赤色)のデモンストレーションを行う小島教授
クロロフィル(葉緑素)の発光(赤色)のデモンストレーションを行う小島教授

講義風景
講義風景

2限目の講義は、東京大学大学院総合文化研究科教授、久我隆弘先生による「『測る』を究める-測定の基本から超精密測定最前線まで」と題した講義です。測ることは、科学研究の基本。しかし、実際に精度よく測ろうとすると、それは非常に大変なチャレンジであることを教えていただきました。受講生らもノギスを渡され、実際に鶏卵のサイズを測定してみましたが、サイズを精度良く測定することが簡単でないことを実感したようです。久我先生が言われた「究極の測定に挑む研究者は、芸術家のよう」という言葉が印象的でした。

ノギスの使い方を説明する久我教授
ノギスの使い方を説明する久我教授
ノギスを使って鶏卵のサイズを測ってみる
ノギスを使って鶏卵のサイズを測ってみる

ガイガーカウンターで放射線を測定する
ガイガーカウンターで放射線を測定する

昼食後は実験に挑戦です。受講生らは二手に分かれて、それぞれ放射線測定と物体の落下実験に挑みました。放射線測定では、久我先生の指導の下、ガイガーカウンターを用いて放射線源からの放射線の測定を行いました。測定毎にばらつく数字と、それにどのような意味があるのか。統計学の基礎的な部分を学ぶと同時に、実験の面白さも体験できました。日々、メディアの報道を通じてさまざまな数字が飛び交っていますが、そういった数字に対してどのような態度で臨むべきなのか、いろいろと考えさせられました。

一方、物体の落下実験では、東京大学大学院総合文化研究科の鳥井寿夫准教授の指導の下、生卵とゆで卵のどちらが早く転がるのかについて考察を行いました。鳥井先生がまず提示されたのは、銅、真鍮、アルミニウムで出来た3つの同じ形をした円柱のうち、どれが一番早く転がり落ちるのか、という課題です。大部分の受講生は、動摩擦力が小さい軽いアルミニウムの円柱が、もっとも早く転がり落ちるのではと予測しました。一方、一部の受講生は、空気抵抗の影響をもっとも小さくできる重い銅の円柱がもっとも早いのではと予測しました。しかし、実験の結果は真ん中の重さである真鍮の円柱がもっとも早く落ちるのです。理論的にはどれも同じ加速度で落ちるはずなのに、なぜ理論と実際の結果が一致しないのか、いくつか条件を変えながら実験を行い、さまざまな考え方を学びました。そして、最後には生卵とゆで卵を転がし、どちらが早く落ちるのかを確かめました。久我先生、鳥井先生の指導の下で、実験の難しさと大切さ、そして面白さを学ばせていただきました。

「剛体の力学」を説明する鳥井准教授
「剛体の力学」を説明する鳥井准教授
3種類の円柱の転がるスピードの実験
3種類の円柱の転がるスピードの実験

コーヒーブレークを挟んで、最後の時間帯は研究室訪問を行いました。訪れたのは、東京大学名誉教授、浅島誠先生のラボと、東京大学大学院総合文化研究科准教授の中島隆博先生の研究室です。お二人の先生には既にEMPでご講義いただいており、今回はふだんの研究の現場を見せていただきました。

浅島先生のラボでは、現在の生命科学の最先端に触れ、実際の現場で研究内容の理解を深めるのが目的です。ウシガエルの卵が、受精後どのように成長していくのかを、段階を追って見せていただきました。所狭しと実験機材が並ぶラボの中で、顕微鏡の中に見える受精卵の様子は、たいへん美しく見えました。他にも、未分化細胞から作成された臓器や、ES細胞などの貴重な研究試料も見学させていただきました。講義で学んだ事を思い出しながら、生命の不思議さとその魅力を、改めて認識しました。

研究ラボで説明する浅島名誉教授
研究ラボで説明する浅島名誉教授
顕微鏡で未分化細胞などを見る
顕微鏡で未分化細胞などを見る

中島先生の研究室は、東大EMPの研究室訪問としては初めて訪れる人文系の研究室で、由緒ある101号館の中にあります。味わいのある建物の一角にある国際哲学教育研究センターは、理系の研究室とは異なりコンパクトな大きさ。しかし、そこに集う研究者らが相手にしている世界は、哲学が誕生してから現代に至るまでの時間的広がりと、全ての文化を横断する空間的な広がりを併せ持つ、広大なものでした。先生から哲学研究の最前線の様子をうかがうとともに、そのような哲学研究を社会がどのように支えていけるのか、受講生らを交えた議論が行われました。最後には、センターで制作された出版物一式もお土産にいただき、文字通り知の重みを感じる事ができました。

1935年に完成した101号館
1935年に完成した101号館
10年に及ぶ「共生のための国際哲学教育研究センター」での研究成果を説明する中島准教授
10年に及ぶ「共生のための国際哲学教育研究センター」での
研究成果を説明する中島准教授

開放感がある駒場キャンパス
開放感がある駒場キャンパス

今回の駒場キャンパス訪問も、終わってみるとあっという間に時間の過ぎた1日だったように感じます。最前線で活躍する研究者たちが、どのような場所で日々の研究を行っているのか。教室内で話をうかがうだけではわからない現場の空気を少しだけ、体感する事ができたと思います。EMPでの講義も残すところあとわずか。今回の訪問で得られた経験も活かしながら、最終レポート発表に向かって準備が進められる事でしょう。



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