お知らせ

プログラムレポート ~農学デー(第11期)~

2014年6月25日

第11期EMPでは、2014年6月13日に農学生命科学研究科がある弥生キャンパスで「農学デー」を実施しました。

午前中は、フードサイエンス棟にある中島董一郎記念ホールを拠点に、フィールドトライアルが行われました。受講生は4つのグループに分かれ、弥生キャンパスの広い敷地内に発生する植物病について、ルーペなどを使って観察して周りました。
グループ毎にそれぞれ異なる植物病のうち、特に病原菌に罹患したと思われる植物を採取し、構内の「植物病院」に持ち込んで、研究員らの指導のもと、植物病の正体を探りました。生物顕微鏡を使って病変部分に感染している病原菌を観察し、植物病の図鑑と照らし合わせながら、チームで議論、診断、発表し、植物医師の仕事を体験しました。実際に自分たちで診断までの一連の流れを体験することにより、植物病院の機能や役割の一端を垣間見ることができ、大変勉強になりました。
受講生からは、キャンパス内だけで10以上もの植物病を観察し、実際にはそれ以上あることに驚くと同時に、「植物の病気」という概念と実態に触れ、こんなにも身近に植物の病気が蔓延していることを知り、驚いたという声が多く聞かれました。

屋外でのフィールドトライアル  屋外でのフィールドトライアル
屋外でのフィールドトライアル
赤星病を罹患したナシ
赤星病を罹患したナシ


採取した植物を実体顕微鏡で観察
採取した植物を実体顕微鏡で観察
シャリンバイの分生子(光学顕微鏡写真)
シャリンバイの分生子(光学顕微鏡写真)
植物病の診断結果のチーム発表
植物病の診断結果のチーム発表


昼食を交えながら、研究室の学生や研究者たちから現在取り組んでいる研究の様子などを聞き、彼らの研究に対する情熱に感銘を受けました。

「植物の健康」を講義する難波教授
「植物の健康」を講義する難波教授

午後は、農学生命科学研究科の難波成任教授による「植物の健康」の講義がありました。
食糧の生産性向上には農薬を使用した「減農薬栽培」が不可避なことや、プラス面ばかりが強調されがちな「有機栽培・無農薬栽培」の問題点、持続可能な食糧生産に関する諸課題について、解説を受けました。食糧や人類の生存環境を持続的に確保するためには、「植物の健康を維持する」新たな技術やシステムの確立が必要である、というお話が印象的でした。

講義の後は2つの研究室を見学しました。
難波教授が研究リーダーを務める植物病理学研究室・植物医科学研究室では、研究室で開発され、現在国内に発生し、問題となっているプラム・ポックス・ウイルス(PPV)の全国調査等に利用されているPPVウイルス検出キットを使い、イムノクロマト法とLAMP法で植物からウイルスを検出する実験を体験しました。
その後は、電子顕微鏡で実際に植物ナノ病原体を観察したり、ゲノム解読用の全自動DNA解析装置や植物・微生物の遺伝子操作用の機器の説明を受けました。極めて微量のDNAサンプルから特定のDNA 領域を短時間に大量に増幅することができるPCR法の実験では、ピペットを使ってDNA試料を電気泳動用のゲルに注入するという体験をしました。
また、光るウイルスを利用してウイルス抵抗性を可視化した実験では、暗くした部屋で植物に紫外線を照射すると、光るウイルスに全身感染した通常の植物と、抵抗性遺伝子を導入してあるためにウイルスの増殖が阻止され、全く光らないという植物の抵抗性の衝撃的な違いを観察しました。抵抗性の無い植物では茎や葉脈に沿って蛍光を発しており、感染の広がり方もよく分かりました。

イムノクロマト法の実験
イムノクロマト法の実験
ピペットを使って溶液をゲルに注入
ピペットを使って溶液をゲルに注入
電子顕微鏡で植物ナノ病原体を観察
電子顕微鏡で植物ナノ病原体を観察


水圏生物科学専攻 水族生理学研究室では、金子豊二教授より「魚の浸透圧調節研究とその応用」について説明を受けました。
魚類には淡水、または海水の中でしか生きられないものもあれば、淡水と海水双方に適応することができるものもいます。そのカギは、魚類のエラにあるカリウム等の塩類の取り込みと排出の役割を担う「塩類細胞」が握っています。カリウムとセシウムは性質が似ているため、セシウムも同じ経路で体外に排出されることがわかっています。海水魚は積極的にセシウムを排出するメカニズムを持っており、カリウムの代謝回転を早めれば、魚からセシウムを取り除く際の効率を高める技術の開発につながるというお話が印象的でした。
また、魚類のイオン・浸透圧調節研究を推進することで、魚が様々な水圏環境に適応する仕組みを解明し、その応用例として海から遠く離れた山里で温泉水を利用して海産魚であるトラフグを養殖する試みについても紹介していただきました。
説明の後、トラフグやティラピアなどの水槽を見学しました。海水魚と淡水魚が同じ水槽の中で生きられる塩分濃度(20~35%)に調節された水槽で、海水魚であるクマノミと淡水魚の金魚が一緒に泳いでいました。

金子教授によるミニレクチャー
金子教授によるミニレクチャー
同じ水槽で泳ぐ淡水魚の金魚と海水魚の熱帯魚
同じ水槽で泳ぐ淡水魚の金魚
と海水魚の熱帯魚
大学構内で飼われているティラピア
大学構内で飼われているティラピア


講義、研究室での実験や観察、フィールドトライアルという、普段とは違ったアプローチで体感することによって、気づきや理解が進む大変有意義な一日となりました。

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