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プログラムレポート ~ 総括討議(第10期)~

2014年3月5日

昨年10月に開講したEMP第10期プログラムは、3月8日に修了式を迎えます。プログラムの中核を占める「教養・智慧」の講義群には、プログラム最終盤にさまざまな分野の講師陣と受講生らの議論を通じて知を統合し、新しい可能性を探るための総括討議がいくつか用意されています。

その先陣を切ったのは、2月28日に行われた「世界の宗教・哲学・思想」の総括討議です。キリスト教を専門とする宮本久雄名誉教授、イスラム教を専門とする竹下政孝名誉教授、ユダヤ教を専門とする市川裕教授が登壇し、中国哲学を専門とする中島隆博准教授のモデレーションの下で、「ポスト世俗化時代における宗教のダイナミズム」をテーマに議論が行われました。人文学的な視点からの議論はもちろん、例えば脳科学的な観点からなぜ宗教を同時に持つことができないのか等、人文学以外の視点からの議論も行われました。

宮本久雄名誉教授
宮本久雄名誉教授
竹下政孝名誉教授
竹下政孝名誉教授
市川裕教授
市川裕教授
中島隆博准教授
中島隆博准教授

翌3月1日には、「物質科学・環境・農学」を中心とした理工系の総括討議が行われました。物性物理学を専門とする家泰弘教授、植物病理学を専門とする難波成任教授、化学システム工学/地球環境工学を専門とする山田興一総長室顧問・EMPコチェアマンが登壇し、「地球気候変動とその適応」をテーマに、各分野の知を統合する試みが行われました。地球温暖化という現象をどのような観点から捉えれば、新しい突破口が見えてくるのか。理工系の観点からの議論に加え、そもそも、どのような大きな物語がその背景にあるべきなのか等、私たちの価値観の根本を問うような議論も行われました。

山田興一EMPコチェアマン
山田興一EMPコチェアマン
難波成任教授(左)・家泰弘教授(右)
難波成任教授(左)・家泰弘教授(右)

次に、臨床疫学を専門とする橋本英樹教授をモデレータに、臨床循環器病学を専門とする永井良三名誉教授、ジェロントロジーを専門とする秋山弘子特任教授、社会システムデザインを専門とする横山禎徳特任教授が登壇した「日本の医療システムの将来像」をテーマとした総括討議も行われました。超高齢化の時代に入り、既に待ったなしの状況になっている日本の医療制度改革ですが、複雑に入り組んだ仕組みをどのような観点から整理し、持続性のあるシステムに作り直すのか。誰もが当事者であるこの問題について、各講師の意見を参考にしつつ、踏み込んだ意見交換が行われました。

永井良三名誉教授
永井良三名誉教授
橋本英樹教授
橋本英樹教授
秋山弘子特任教授
秋山弘子特任教授
横山禎徳特任教授
横山禎徳特任教授

引き続き、人文系と理工系の統合可能性を探る総括討議も行われました。山田興一EMPコチェアマンから「ヒトはどのように特殊なチンパンジーか」というテーマが示され、それを元に人間行動進化学、行動生態学、進化心理学を専門とする長谷川壽一教授(理事・副学長)、非線形物理を専門とする佐野雅己教授、神経生化学・神経シグナル伝達学を専門とする尾藤晴彦教授、哲学を専門とする梶谷真司准教授が議論を行いました。チンパンジーと人間の脳構造はなにか決定的な違いがあるのかないのか、それは思考の複雑性とどう関係しているのか、複雑系としての社会を人間はどう見通せるのか等、幅広い分野にわたる議論が行われました。創発的な環境が醸成されるために必要な社会集団の構成数や、創発に至るためのニューロンの臨界数等、結論の出ない自由な議論もありました。

左から:佐野雅己教授・山田興一EMPコチェアマン・尾藤晴彦教授
左から:佐野雅己教授・
山田興一EMPコチェアマン・尾藤晴彦教授
梶谷真司准教授(左)・長谷川壽一教授(右)
梶谷真司准教授(左)・長谷川壽一教授(右)

プログラムの最後には、ここまでの講義全体を俯瞰する総合討論が行われました。小宮山宏前総長、発生生物学が専門の浅島誠名誉教授、インド哲学が専門の丸井浩教授、分子病態医科学が専門の宮崎徹教授が登壇し、各先生の話題提供の後に、山田興一EMPコチェアマンがモデレーションしながら自由な討議が行われました。知の統合化や課題設定の具体的な方策についての議論から、重みを増しているナチュラル・ヒストリーについての言及、さらには科学そのものが対象とできる事の限界について等、さまざまな角度から総合的な討議が行われました。

小宮山宏前総長
小宮山宏前総長
浅島誠名誉教授
浅島誠名誉教授
丸井浩教授
丸井浩教授
宮崎徹教授
宮崎徹教授

いずれの総括講義に共通するのは、異なる分野の複数の講師が登壇し、受講生からの問いかけを受けて議論が展開していく点です。異なる立場からの、異なる見方を引き出し、それをつなげていくことで、問題を多面的に捉えより良い見通しを得ることができます。一見まったく関係がないように見える分野同士でも、これまで半年間、100名を超える講師陣と議論を重ねてきた受講生らにとってはそこにさまざまな可能性を見いだすことができました。半年間の成果を感じた総括講義群でした。

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