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プログラムレポート ~柏キャンパス見学(第16期)~

2016年12月15日

EMP第16期では、12月9日、東京大学主要キャンパスのひとつである柏キャンパス(千葉県柏市)の施設見学を行いました。2000年に新しい学問領域の創造を目指して開設された柏キャンパスでは、様々な新しい取り組みが行われており、その最先端分野の研究施設を見学しました。

最初に、物性研究所長の瀧川仁教授から、柏キャンパスと物性研究所の概要についてお話しいただきました。続いて、吉田直紀教授より、カブリ数物連携宇宙研究機構の説明をしていただきました。

説明の後、Jiaxin Han特任研究員と広報担当の小森真里奈特任助教の案内で、カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU、以下IPMU)の施設を見学しました。IPMUは世界から数学、物理学、天文学の研究者を集め、共同で宇宙の謎に挑んでいます。専任研究者の半数以上は外国人で、公用語は英語という国際性の高い施設です。
研究者間での活発な議論が行われることを狙い、入口から屋上階まで各研究室を繋ぐらせん状の廊下、建物の中央にある広々としたラウンジやテラスなど、お互いに顔を合わせる機会を多く創り出すような工夫が随所に見られます。いつでも議論ができるよう用意された黒板にはたくさんの数式が書き込まれており、ここで日々行われている議論を想像しながら、楽しく見学しました。

柏キャンパス風景
柏キャンパス風景
物性研究所の概要説明をする瀧川所長
物性研究所の概要説明をする瀧川所長
広々としたIPMUラウンジ
広々としたIPMUラウンジ

施設見学を行った後、物性研究所に戻り、金道浩一教授より超強磁場実験棟の概要説明、辛 埴教授と石井順久助教より極限光科学実験棟の概要説明をしていただきました。

2班に分かれて、物性研究所の極限光科学実験棟と超強磁場実験棟を見学しました。 極限コヒーレント光科学研究センターの極限光科学実験棟は、真空紫外・軟X線レーザーの物性研究利用を主目的とし、光源開発とそれを用いた物性研究を行っています。
板谷治郎准教授の研究室では、高強度超短パルスレーザーを用いた超高速物理現象に関する研究を行っています。石井順久助教の解説により、「高次高調波」とよばれるコヒーレント短波長光の発生装置などの実験装置群の見学をしました。 辛埴教授の研究室では、レーザーと光電子科学の両者を結びつけた新しい光科学を目指し、その中で特に重要と思われる究極のエネルギー分解、時間分解、空間分解を可能にする3つの分野で、世界最高の性能とそれを用いた新しい物性研究を行っています。辛教授の解説により、開発中の最先端レーザーなどの見学をしました。

実験装置について解説する辛教授
実験装置について解説する辛教授
研究について説明する石井順久助教
研究について説明する石井順久助教(右)


国際超強磁場科学研究施設では、パルス強磁場を用いて強力な磁場を発生させ、物質の性質を変化させたり、物質の電子状態を調べる研究を行っており、国内外の強い磁場を必要とする物性共同研究などに寄与しています。
最初に、松田康弘准教授、池田暁彦助教の案内のもと、破壊型の電磁濃縮超強磁場発生装置を見学しました。巨大なコンデンサーに貯められた膨大な電流を一気に流すことで、700~800テスラに及ぶ超強力な磁場を瞬間的に発生させることができ、実験によってねじ曲がったり、砕け散った部品の数々に、磁場の力の凄まじさを感じました。現在、1,000テスラの発生に向けた開発も進行中。

次に、金道浩一教授、徳永将史准教授の案内により、ギネスブックにも登録されている世界最大の発電能力を有する直流発電機としてフライホイール付き直流発電機を見学しました。金道研究室では、様々な用途に応じて特殊なマグネットの開発を行っています。金道教授が開発したマグネットは、線材強度や緻密な巻き方などに工夫があり、「金道マグネット」とも呼ばれており、非破壊パルス強磁場(単パルス)としては、世界最高の85.8テスラという記録を樹立しているそうです。

強磁場発生装置用大型コンデンサーの前で説明する松田准教授
強磁場発生装置用大型コンデンサー
の前で説明する松田准教授
ロングパルス強磁場実験棟について説明をする金道教授
ロングパルス強磁場実験棟について
説明をする金道教授
フライホイールを説明する徳永准教授
フライホイールを説明する徳永准教授

その後、広いキャンパス内を横断してキャンパスの最西端にある大気海洋研究所の見学をしました。同研究所は2010年4月1日、海洋研究所と気候システム研究センターが統合して、新しい名前でスタートしました。気候システム、海洋地球システム、海洋生命システムの三つの研究系と研究連携領域、四つの研究センターがあります。
見学に先立ち、所長の津田敦教授から研究所の概要説明、高畑直人助教からはナノシムスを用いた研究概要について、岡英太郎准教授からは海洋観測研究の概要についてのミニレクチャーがありました。
ミニレクチャーのあとは、2班に分かれて、岡准教授の案内で、屋外にある海洋観測機器棟にある海水の採水器や深海生物を採集する網等の海洋観測に使用する様々な機器を見学しました。
次に、高畑助教と鹿児島渉悟特任助教の解説のもと、高空間分解能二次イオン質量分析計(ナノ・シムス)を見学しました。この装置は、光や電子の代わりにイオンを使って微小領域を見る顕微鏡のようなもので、微小領域の元素、同位体組成が分析できます。これらを使い、木の年輪のような貝殻の化学組成の濃淡を1日単位まで細かく調べることができるそうです。

大気海洋研究所の概要説明をする津田所長
大気海洋研究所の概要説明をする
津田所長
海洋観測機器棟の見学
海洋観測機器の説明をする岡准教授
ナノ・シムスについて解説する高畑助教(右)と鹿児島特任助教(左)
ナノ・シムスについて解説する
高畑助教(右)と鹿児島特任助教(左)


以上の施設見学を行った後、大気海洋研究所に戻り、羽角博康教授から「気候変動と海洋」と題して講義をしていただきました。

今回の柏キャンパス見学では、世界でも一、二を競うような高精度の実験環境が整えられた広いキャンパス、そしてそれらを駆使し、知の最前線に立って、前人未踏の最先端の研究に取り組む研究の現場の臨場感を身近に感じた一日で、まさに、贅沢な「知の冒険」を体験する貴重な機会となりました。

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