雇い止め問題について


 雇い止め問題は2008年2月から、代表団の最大の関心事の一つでしたが、特に11-12月の法人側との協議における主たる議題となりましたので、以下、簡単にご報告いたします(12月29日)。
1.11-12月の協議および協定締結について
 これは例年はなかったことですが、今年は、3月の協定調印の時点で、三六協定(時間外勤務及び休日勤務に関する協定)と高齢者再雇用協定(高年齢者の再雇用対象者に係わる基準に関する協定)については11月末日までの8ヶ月の協定とし、両検討会(ワークライフバランス検討会、短時間・有期雇用職員等処遇改善検討会)の第一次改善プランを受けて、改善の方向性なども見極めながら、残りの期間について再協定することとしていました。両検討会の議事要旨と改善プランについては東大ポータルでそれぞれ以下をご参照ください。
ワーク・ライフ・バランス検討会(http://www.adm.u-tokyo.ac.jp/gakunai/per/per2/worklifebalance)第一次改善プラン
短時間・有期雇用職員等処遇改善検討会(http://www.adm.u-tokyo.ac.jp/gakunai/per/per2/tanjikankentoukai)第一次改善プラン
 11-12月月のたびたびの折衝と協議で最大の話題となったのは、来年3月末日以降発生する雇い止めに関わる問題についていかなる解決の方向性を示せるかという点でした。法人化後の非常勤職員の多くは1年契約の更新4回まで可という条件で雇用されてきましたので、来年3月末に最初の雇い止めが発生します。契約を4回も更新されて、その有能さと不可欠さの証明された方がいなくなることによって研究室等の現場に発生する業務遅滞などさまざまな不都合を生み出すだけでなく、この雇い止め規定は、東京大学での仕事を継続したいという非常勤職員の方の意欲に応えることのできない仕組みになっています。また、5年経過後の雇い止めは解雇権濫用に当たるとみなされるおそれのあることが、短時間検討会が招聘した弁護士から指摘されており、5年で雇い止めにするなら雇用継続への期待権は発生しないとの法人側の見解には重大な疑義があります。
 したがって、5年経過後は一律に雇い止めで事足れりとするのではなく、合理的で納得性の高い雇用管理の仕組みを非常勤職員にも導入して有能な人材を確保できるようにするとともに、他方では、契約条件を明瞭にして、非常勤職員の雇用に恣意性が及ばないようにする工夫こそが求められているのだと考えられます。
 今期代表団は当初より、雇い止め問題を最重点課題の一つとして、年度内の遅くない時期に解決の方向性を固めるべきであると主張してきました。この点は短時間検討会でも多面的に調査検討され、大きな論争点となりましたが、その第一次改善プランでは、解決の方向性を明示できず両論併記となったことがらです。
 検討会が解決の方向性を打ち出せなかったことがらなので、雇い止め問題については法人側と代表団との協議を経て解決策を模索し、3月末以降の問題発生を未然に防止できる準備をすべきであったと代表団としては考えていますが、この点では法人側との間に認識のずれと行き違いがありました。
 代表団が雇い止めの撤廃のために一歩足を踏み出すべきだと主張し続けてきたのに対して、法人側は、現行の雇い止め規定を維持したうえで、雇い止めにともなって発生する様々な不利益・不都合を回避するための方策を打ち出すことを当面の課題と考えたのです。

2.特任専門職員制度の柔軟化
 その方策が特任専門職員制度の活用ないし転用です。提案の詳細は就業規則改定第一次案の通りですが(lzhフィルですのでいったん保存してから解凍してください)、従来は特任専門職員の採用には役員会承認が必要であったのを本部への届け出へ緩和し、時給最低額を1442円から865円へ引き下げ(現在の短時間職員の時給額から大幅増とならなくても特任で雇える)、給与額の決定権も部局へおろすという「柔軟化」案です。採用方法は原則として公募とのことですが、それぞれの採用案件の特性に応じて、余人を持って代え難いなど特別な能力・経験等を有していることが説明されるなら、公募によらない採用も可です。最長3年契約で、再契約可です。
 代表団としては、雇い止めとなる短時間職員も困り、その方々に仕事をお願いしていた研究室も困るという最も大きな不都合は、こうした柔軟化である程度は回避できる見通しが立つため、この提案を了としましたが、それは雇い止め問題の根本的な解決策にはならないし、特任専門職員の制度にも本来予定していなかった要素をもたらし、さまざまな齟齬を発生させる危険性があるため、当面の回避策以上の意味は持てないことを指摘し、根本的な解決(雇い止め規定の撤廃と、短時間職員についての合理的な雇用管理の導入)の方向性を明示すべきであると主張しました。
 たびたびの折衝と協議を通じて、法人側も、特任専門職員制度の柔軟化が根本的な解決策ではないこと、また、多くの部局から雇い止めの撤廃を求める声が上げられるならその方向で検討せざるをえないと認めるにいたりました。

3.問題解決の方向性について
 こうした議論のやりとりを踏まえて、12月22日の代表団との協議において、吉井統括長より以下のとおり、雇い止め問題も含めて今後の検討と改善の課題である旨、発言がなされました。この発言は辰野理事の了承の下になされたもので、法人側の基本的な姿勢を示すものと受けとめて差し支えありません。

 「今回提案している特任専門職員制度の柔軟化は法人側としては一所懸命考えた結果ではあるが、東京大学における雇用に関わる問題がこれですべて解決できるというわけではない。今後さらに、期末手当の支給など短時間勤務有期雇用職員の処遇および雇用限度をめぐる問題については、部局からの意見や、過半数代表者の皆様からの意見を伺いながら、引き続き検討して改善すべきものと考えている。今年は二つの検討会にご協力いただき大きな成果をあげたが、今後も東京大学における雇用の環境を安定的に確保しながら改善するために労使が意見を出し合いながら進めて行きたい」。

 代表団としてはこの発言を了とし、来年1月末に選出されるであろう次期代表団に、法人側との協同関係を通じて雇用環境の改善のために努力すべき旨引き継ぐと申し上げました。

 なお、上記(2)の特任専門職員の規則改訂に先だって、雇い止めがらみの特任採用の手続きは来年早々にも始めなければならないため、その運用指針が1月には本部より提示される予定です。非公募の採用も可能であること、採否や給与格付けについては部局の決定が尊重されることについては、代議員諸氏からも周囲の関係者のみなさまに周知していただきますようお願いいたします。
 また、特任制度の運用をめぐる問題や雇用限度をめぐる現場の問題について情報やご意見がございましたら、随時、次期代表団(2009年1月27日の本郷事業場代議員会にて選出予定)にお寄せくださいますよう、併せてお願いいたします(以上2008年12月29日)。

4.退任挨拶での懸念
 わたくしども代表団は2009年1月27日の本郷事業場代議員会で、新代表団が選出されたため退任しましたが、すでにその時点で、上記特任制度の運用についての疑問が多数寄せられていたため、辰野理事宛の退任挨拶において、以下の懸念を表明しました。

「 東京大学理事 辰野裕一さま
  人事・労務系統括長 吉井一雄さま
  労務・勤務環境グループ長 白勢祐次郎さま

 貴職におかれましてはますますご清栄のことと存じます。
 さて、本日午前中に開催されました本郷事業場代議員会にて、2009年の新たな代表者と副代表者が選出されましたので、わたくしども2008年の代表団は本日をもって退任いたしますので、お知らせ申し上げます。
 短い期間ではありましたが、東京大学の発展と教職員の良好な勤務環境の実現のために、貴職をはじめ人事・労務系のみなさまとともに働くことができ、たいへんよい勉強になりました。任を終えた後も同じ目的のためにささやかながら力を尽くす所存ですので、今後ともよろしくご指導賜りますようお願いいたします。
 本来ならば、代表団うち揃ってご挨拶にうかがうべきところですが、年度末の多用な時期ですので、粗略ではありますが、メイルにて失礼いたします。
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 なお、末尾ではありますが、先週来、わたくしどものところに、特任専門職員制度の柔軟化(より正確には1月16日付の統括長名の通知「特任専門員及び特任専門職員制度の改正に伴う手続き等について」)に関わって各方面より苦情や不満が寄せられていますので、その点につきお知らせすることをもって最後の仕事としたいと思います。
 簡単に申し上げるなら、柔軟化とはいえ、極めて厳格かつ杓子定規の印象を与えており、雇い止めにともなって研究教育の現場に発生する当面の問題を回避するために使うには馴染まない受けとめられているということです。
 そもそもは「特任」の制度は文字通りに解するなら柔軟化とは首尾一貫しがたい面がありますし、総長のご懸念にももっともな部分があると考えられますが、今回、それにもかかわらず「柔軟化」の提案をなさるわけですから、制度改正の建前論にとどまることなく、柔軟化の趣旨(なぜ部局裁量としたのか、なぜ時給最低額を引き下げたのかについて納得できる説明)、およびそれを必要とするにいたった事情について各部局・学科・研究室に正確に理解していただくために、駒場事業場過半数代表者が要求しているような全教職員向けの説明会の開催、雇い止めとなる方に適用する場合等の例示やQ&Aの追加通知など、可能なあらゆる方法で可及的速やかに周知方ご配慮いただきますようお願いいたします」。

5.2009年2月以降

 東京大学 短時間勤務職員(非常勤職員)の雇止め規定の撤廃を!(2009年2月24日に開始した学内署名運動http://www.conductivity-anomaly-jp.blogsite.org/hijokin2009)


 3月17日学内集会向けのメッセージ
 東京大学における非常勤職員の雇止めは以下の三重の意味で不合理な仕組みです。第1に、当の非常勤職員にとって雇用と収入の喪失を意味するだけでなく、彼らが現場で培ってきた能力や経験は雇止めになったとたんに無意味になってしまいます。第2に、非常勤職員の方に仕事をお願いしてきたさまざまな職場からは、雇い止めとなる非常勤職員の高い能力と豊かな経験が無駄に流出し、業務は確実に遅滞します。また、同じ仕事に新しい方を雇い入れ、仕事を覚えてもらうために有形無形さまざまなコストを負担することを強いられます。第3に、人を育てる場としての東京大学が人を使い捨てにしているという汚名を帯びることになります。
 このように合理化も正当化もできない仕組みなのに、法人化に当たって雇止め規定はなぜ必要と考えられたのでしょうか。雇用契約の更新限度を明瞭に定めなければ、何年でも居座り続け、継続雇用の期待権が発生してしまう、そうなったら解雇もできなくなる、この恐怖感が、雇止めという不合理な仕組みを生み出した最大の理由なのです。適性も能力も意欲も乏しい者が同じ職場に何年も滞留し続ける恐怖感が、本学教職員の間でささやかれ続けてきたのは事実でしょう。
 では、雇止め以外に居座り続けるのを防止する手段はないのでしょうか。また、適性、能力、意欲の充分な方をそうでない方と一律に扱って更新限度4回で切り捨てる以外に手だてはないのでしょうか。
 この問いに対して法人側は次のように答えました。すなわち、非常勤職員についてはまともな雇用管理が現になされていないし、また雇用管理をしようとしてもそれは事実上不可能である。雇用管理ができないなら、適性、能力、意欲の乏しい者が居座り続けるのを防ぐことはできない。これが法人側、ことに人事労務系が雇止めに固執する唯一の理由なのです。
 しかし、まさに、ここにおいて法人側は二重に誤りを犯しています。非常勤職員を雇う現場では苦労して獲得してきた外部資金を有効かつ適切に利用するために日々さまざまな努力を続けています。適性、能力、意欲の乏しい方を雇い続ける余裕などありはしませんし、多くの常勤教職員がそういう方の契約を更新しなかった経験をお持ちのことでしょう。度重なる定員削減と法人化後の人件費削減にもかかわらず東京大学の各部署の機能が維持されてきたのは、各部署が優秀で意欲のある非常勤職員を選択してきたからでもあるのです。さまざまな現場が非常勤職員の雇用について育ててきた知恵や経験を理解しようとも、それに学ぼうともしない法人側は、まず、この点で重大な誤りを犯しています。まっとうな雇用管理は現場においては実質的になされてきたのです。
 第二の誤りは、さらに致命的です。雇止めの規定は、短時間勤務有期雇用教職員就業規則の第11条第1項に定められています。そこでは非常勤職員の契約更新は「予算の状況及び従事している業務の必要により、かつ当該短時間勤務有期雇用教職員の勤務成績の評価に基づき行うものとする」と定められています。しかし、法人側は、雇用管理がないから勤務成績評価も現実にはなされず、したがって適性、能力、意欲の乏しい者が居残ってしまう危険性が発生するのだと言っているのです。自ら定めた就業規則の求める契約更新の条件が現実には満たされていないというのなら、規則通りに勤務成績評価を行うよう各部局・各現場に指導を徹底させるか、そうでなければ、実態に合わせて規則を改定するかどちらかが法人人事労務系の役割でしょう。しかし、そのどちらをするのでもなく、同じ第11条の第2項にしたがって雇止めだけは規則通りに実施させようとする、この自家撞着と、退嬰的で後ろ向きな姿勢、これこそが本学における雇止め問題の本質なのです。
 いま、われわれは、非常勤職員も、常勤の教職員も、そして法人としての東京大学全体も、雇止めといういまわしいくびきから自らを解放できる地点に到達しています。雇用管理の知恵と経験はすでに現場に蓄積されています。あと必要なのは、ほんの少しの勇気と、働く者への誠意です。その勇気と誠意も示せないほど東京大学は落ちぶれていないはずです。
 東京大学を活力の溢れる研究教育の場とし、働きやすく、働きがいのある場とするために、わたしたちは雇止め規定の撤廃を求めます。
                    2009年3月17日
                    小野塚 知 二





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