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プログラムレポート ~小林誠氏(2008年ノーベル物理学賞受賞)東大EMPで語る~

2009年6月26日

2009年6月13日、2008年のノーベル物理学賞を受賞された小林誠氏をお招きし、特別講義として「反物質入門」という題で語っていただきました。

まず、物質は何からできているのか、粒子と反粒子とはどんなものかの解説から始まりました。粒子から出来ているのが物質、反粒子から出来ているのが反物質です。反粒子は天然には安定して存在しませんが、実際に使われているほぼ唯一の例としてPET(陽電子放射断層写真)の紹介がありました。

本題はもちろんノーベル物理学賞の対象となった「小林・益川理論」の話でしたが、理論の詳細というより、素粒子論研究の歴史や理論の生まれた背景が丁寧に解説されました。宇宙の初期条件としては(ビッグバン直後の超高温・高密度状態では)、粒子と反粒子は同じだけあったと考えられているので、温度が下がるにつれて対消滅して物質も反物質もない光だけの宇宙になったはずです。しかし現在の宇宙には物質があります。何らかのメカニズムで、最初は同量の粒子と反粒子から一方(我々の宇宙の場合には粒子)を僅かに残す仕組みがないといけません。その鍵となるメカニズムが「CP対称性の破れ」です。「小林・益川理論」は、当時(1973年)の標準理論(クォークは4種類と考えられており、うち3種類は発見されていた)では「CP対称性の破れ」を起こすことはできず、クォークは6種類あること(6元模型)を予言したものです。その後1995年までに予言通り残る3種類のクォークが発見されました。「CP対称性の破れ」の研究では、小林氏が所属されていた高エネルギー加速器研究機構(KEK)のB-ファクトリーで大きな成果が挙がっています。

一般の人には難しい理論でしたが、多くの質疑応答があり、素粒子物理学からみた世界観を知る手がかりになりました。また、「天使と悪魔」にあるように、反物質で大爆発を起こすことはできないこと、CERNの実験でブラックホールが出来たとしても瞬時に蒸発してなくなる微小なもので、何も危険なことはないなど、巷間の疑問にも答えて頂き、素粒子物理分野に対する興味が深まりました。

「反物質入門」について語る小林氏
「反物質入門」について語る小林氏
熱心に聴く受講生。素粒子物理分野に対する興味が深まった
熱心に聴く受講生。素粒子物理分野に対する興味が深まった

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