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プログラムレポート ~柏キャンパス見学(第10期)~

2013年12月10日

EMP第10期では、11月29日、東京大学主要キャンパスのひとつで、2000年に新しい学問領域の創造を目指して建設された柏キャンパス(千葉県)の施設見学を行いました。
そこで行われている様々な新しい取り組みや最先端分野の研究活動の実際に触れ、柏キャンパスが目指す「学融合」「知の冒険」「国際キャンパス」の現場を体験しました。

見学に先立ち、物性研究所の家 泰弘教授から「磁石、磁力、磁場」のミニレクチャーと柏キャンパスの概要の説明があり、物性研究所の屋上からキャンパス全体および周辺の概観を俯瞰しました。

柏キャンパス風景
柏キャンパス風景
家教授によるミニレクチャー
家教授によるミニレクチャー
物性研究所屋上から見学
物性研究所屋上から見学
天候に恵まれ、富士山も見えました

キャンパス見学のあと、マーカス・ワーナー特任研究員の案内で、カブリ数物連携宇宙研究機構(IPMU)の施設を見学しました。IPMUは世界から数学、物理学、天文学の研究者を集め、共同で「宇宙はどうやって始まったのか」「宇宙は何でできているのか」「宇宙はこれからどうなるのか」といった謎に挑んでいます。専任研究者の半数以上は外国人で、公用語は英語という国際性の高い施設です。研究者間での活発な議論が行われることを狙い、入口から屋上階まで各研究室を繋ぐらせん状の廊下、建物の中央にある広々としたラウンジやテラスなど、お互いに顔を合わせる機会を多く創り出すような工夫が随所に見られます。いつでも議論ができるよう用意された黒板にはたくさんの数式が書き込まれており、ハイテクの一方で、黒板やホワイトボードで議論を重ねていくことにより、専門のバックグラウンドの違う人達がここで出会うことで新しい発見が生まれてくるということを想像しながら、楽しく見学しました。

IPMUの建物の屋上
IPMUの建物の屋上
広々としたIPMUラウンジ
広々としたIPMUラウンジ
数式で埋め尽くされたIPMUの黒板の前で説明するワーナー特任研究員
数式で埋め尽くされたIPMUの黒板の前で
説明するワーナー特任研究員(一番左)

以上の施設見学を行った後、物性研究所に戻り、大気海洋研究所の羽角博康教授から「物質循環と環境~気候変動と海洋~ 」と題して講義をしていただきました。受講生からは、これまで温度で循環していると思っていた「熱塩循環」が、塩分濃度で循環しているということがわかり、温暖化により循環が止まるというしくみが理解できたとの声が聞かれました。

「気候変動と海洋」を講義する羽角教授
「気候変動と海洋」を講義する羽角教授
見学後の休憩の合間での、家教授による超伝導の実演は驚きの連続でした  見学後の休憩の合間での、家教授による超伝導の実演は驚きの連続でした
昼食後の 家教授による超伝導の実演は驚きの連続でした

昼食の後は2班に分かれて、物性研究所の超強磁場実験棟と先端分光実験棟を見学しました。
国際超強磁場科学研究施設では、パルス強磁場を用いて強力な磁場を発生させ、物質の性質を変化させたり、物質の電子状態を調べる研究を行っており、国内外の強い磁場を必要とする物性共同研究などに寄与しています。
最初に、嶽山正二郎教授、松田康弘准教授の案内のもと、破壊型の電磁濃縮超強磁場発生装置を見学しました。巨大なコンデンサーに貯められた膨大な電流を一気に流すことで、700~800テスラに及ぶ超強力な磁場を瞬間的に発生させることができ、実験によってねじ曲がったり砕け散った部品の数々に、磁場の力の凄まじさを感じました。

電磁濃縮超強磁場発生装置の解説をする嶽山教授
電磁濃縮超強磁場発生装置の解説をする嶽山教授
説明する松田准教授
説明する松田准教授


金道研究室では、様々な用途に応じて特殊なマグネットの開発を行っています。金道教授が開発したマグネットは、線材強度や緻密な巻き方などに工夫があり、「金道マグネット」とも呼ばれており、非破壊パルス強磁場(単パルス)としては、世界最高の87.7テスラという記録を樹立しているそうです。現在も100テスラの発生を目指した開発を行っていますが、平成20年5月より、世界最大のフライホイール付き直流発電機の運転が始まり、これを電源として用いることで、これまで時間の制約で不可能と考えられていた測定にも強磁場を提供することができるようになったそうです。金道浩一教授、徳永将史准教授の案内により、ギネスブックにも登録されている世界最大の発電能力を有する直流発電機としてフライホイール付き直流発電機を見学しました。

フライホイール型直流発電機の解説をする金道教授
フライホイール型直流発電機
の解説をする金道教授
「金道マグネット」を手にして説明を受ける受講生
「金道マグネット」を手にして
説明を受ける受講生
人力フライホイール発電機用いて説明する徳永准教授
人力フライホイール発電機用いて
説明する徳永准教授

極限コヒーレント光科学研究センターの先端分光実験棟は、大規模なクリーンルームと除振床を設置し、極限的性能を持つレーザーの開発やレーザーを用いた物性研究を行っています。 末元 徹 教授の研究室では、極限的な超高速現象を追及すると同時に、幅広い物質群に新しい超高速分光法を適用することを目標に、波長可変光源、低温測定、磁場下測定、顕微測定装置などが整備されています。最近のレーザー技術の進歩に伴って、様々の光源が開発され、10-14秒オーダーの超短時間の世界が研究できるようになってきたそうです。末元教授から「超短パルスレーザーによるテラヘルツ波の発生と利用」のお話をうかがいながら、装置の見学をしました。
小林洋平准教授の研究室では、量子エレクトロニクス、特に最先端レーザーの研究開発とその応用研究を行っています。レーザーを自由に設計し開発することにより、今までになかった光源で新しい科学を切り拓く研究スタイルです。小林准教授の案内で、開発中の最先端レーザーの見学をしました。

実験装置について解説する末元教授
実験装置について解説する末元教授
実験装置について解説する小林准教授
実験装置について解説する小林准教授


その後、広いキャンパス内を横断してキャンパスの最西端にある大気海洋研究所の見学をしました。同研究所は2010年4月1日、海洋研究所と気候システム研究センターが統合して、新しい名前でスタートしました。気候システム、海洋地球システム、海洋生命システムの三つの研究系と研究連携領域、三つの研究センターがあります。
見学に先立ち、所長の新野宏教授から研究所の概要説明、海洋生命科学部門 兵藤 晋准教授から サメやエイなどの軟骨魚類について、海洋化学部門 小畑 元准教授からは、海洋観測研究の概要についてのミニレクチャーがありました。
ミニレクチャーのあとは、2班に分かれて、兵藤准教授の案内で飼育実験施設の見学を行いました。ふ化しかかっているトラザメの卵、シロサケ、ウナギなど、貴重な飼育魚類の水槽が所せましと並んでいました。
次に、小畑准教授の案内で、屋外にある海洋観測機器棟で、海水の採水器や深海生物を採集する網等の海洋観測に使用する様々な機器を見学しました。

大気海洋研究所の概要説明をする新野所長
大気海洋研究所の概要説明をする
新野所長
兵藤准教授によるミニレクチャー
兵藤准教授によるミニレクチャー
小畑准教授によるミニレクチャー
小畑准教授によるミニレクチャー


たくさんの水槽が並ぶ飼育実験水槽
たくさんの水槽が並ぶ飼育実験水槽
ふ化途中のトラザメの卵
ふ化途中のトラザメの卵
海洋観測機器の説明をする小畑准教授
海洋観測機器の説明をする小畑准教授


今回の柏キャンパス見学では、世界でも一、二を競うような高精度の実験環境が整えられた広いキャンパス、そしてそれらを駆使し、知の最前線に立って、前人未踏の最先端の研究に取り組む研究の現場の臨場感を身近に感じ、一日で、まさに、贅沢な「知の冒険」を体験する貴重な機会となりました。  

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