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プログラムレポート ~梶田隆章教授(2015年ノーベル物理学賞受賞)東大EMPで語る~

2016年3月3日

「ニュートリノ振動現象」について語る梶田教授
「ニュートリノ振動現象」
について語る梶田教授

EMP第14期プログラムも最終盤に差し掛かった2月26日に、東京大学宇宙線研究所所長の梶田隆章教授による特別講義が行われました。2015年ノーベル物理学賞受賞を記念しての特別講義です。テーマは、「ニュートリノ振動現象の発見とその後の進展」。一躍有名になったニュートリノ振動ですが、私たちが日々の暮らしの中でその現象を実感することはありません。いったいどのようなきっかけから研究は始まり、どのような思考のプロセスを経て、私たちの世界観を変える発見に至ったのでしょうか。

梶田教授のお話は、まずニュートリノの基礎から始まりました。目に見えない世界を扱う抽象度の高い話ですが、身近な例え話などを使いながら分かりやすくお話しいただきました。受講生らも、これまでに素粒子物理学や天文学の講義を受講していたこともあって、よく理解ができたようです。

そして、いよいよ今回のノーベル物理学賞受賞に繋がるご研究のお話です。岐阜県の神岡鉱山の地下1000メートルにある実験施設「カミオカンデ」を用いた陽子崩壊の観測実験のさなかに、当時大学院生だった梶田教授は、事前の予測とは異なるニュートリノの振るまいがあることに気がつきます。ニュートリノの一種、ミュー・ニュートリノが期待される検出数よりも少なかったのです。これは、それまでの素粒子物理学の常識では考えられないことでした。解析ソフトや装置の不具合など、考えられるさまざまな要因を検討した結果、やはり確かに少ないということを確信した梶田教授は、研究グループとしてその内容を論文にまとめて公表したのでした。1988年のことです。

この観測事実をいったいどう説明したら良いのでしょうか。梶田教授らは、これは「ニュートリノ振動」と呼ばれる現象なのではないかと考えるに至ります。「ニュートリノ振動」が起こるためには、ニュートリノに質量がなくてはなりません。しかし、ニュートリノには質量がないことが、当時の素粒子物理学の大前提でした。もしニュートリノに質量があれば、その大前提に修正が必要です。そしてそれは素粒子の世界をより深いレベルで理解することに繋がるはずです。これを確かめるべく、新たな観測装置を建設します。これが、「スーパーカミオカンデ」です。

1996年に完成して観測を開始したスーパーカミオカンデは、カミオカンデの約20倍の有効体積を持つまさにスーパーな観測装置です。その威力はさっそく発揮されます。1998年に公表された観測成果で、地球の反対側から飛来するミュー・ニュートリノの検出数が、理論で予測される数よりも間違いなく少ないことを世界に示したのです。この結果によって、「ニュートリノ振動」の存在と、それをもたらす原因であるニュートリノの質量の存在が決定的となったのです。

梶田教授の特別講義風景
梶田教授の特別講義風景
梶田教授を囲んで(@EMPラウンジ)
梶田教授を囲んで(@EMPラウンジ)


梶田教授の話に引き込まれるように、講義は集中した雰囲気の中で行われました。今回の特別講義は、現役の受講生(第14期生)だけでなく、EMP修了生にも特別に聴講を許可して行われました。30名以上の修了生、そして何名かのEMP講師陣も参加し、熱心に梶田教授の話に聞き入っていました。講義の後半では質疑応答が行われましたが、素粒子物理学の今後の展望や、研究プロジェクトのマネジメントのあり方、思想や哲学に及ぼす影響について等、EMPらしい深さと広がりを持ったやりとりになりました。講義終了後のコーヒーブレークでも先生を囲んでの質問は途切れることはなく、受講生らにとってはまさに“特別”な一日となったようです。

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